外から鍵をかけられた牢獄で自由を謳歌する私から、モデルルームのような部屋でその鍵をその手に持ち体育座りをして俯く君へ

1227

もし持って行ってもらえなかったら、来年はあの森で一番おいしい木の実をプレゼントしようと思うんだ。


“前略 先日の話の続きであるが、なるほどお主がお主の言うような仕組みであったとして、それは環境にも、相対するものにも、何にも関わらず同じ動作をするのか、意識にものぼらぬ前提条件があるのではないのかね。自分で選んだと思っているそれは、誰かが最初にくれただけのものではないのかね。あるいは、お主の思っているお主なんて、最初からそうだったような気がするだけではあるまいか。

お主は自分では色々と条件を試したと考えているようだし、いっぱしの経験も積んだと思っているようだが、なあに、儂にすれば20才の女も齢3000年の女も、火星の商社でエリートサラリーマンになるのもおとめ座銀河団の探偵としてひとり星々を巡るのも、大した違いなどないのだぞ。もう時間軸など儂にとって何の役にも立たぬ。ばらばらと平面に描かれた星々のごとく、儂には全てが見渡せるのだ。

そもそもお主は結局ひとつかふたつは絶対に条件を固定しているではないか。ブラックホールの向こう側に行ってみろ。いや、さすがにそれは儂でも無理かな。そうだな、女にこだわることはないではないか。この前たまたま行った惑星のやつらはなかなかよかった。今度連れて行ってやろう。そうだ、この前通りかかったあの国のあれは、お主の目には毒に見えるのか。それなら儂がひとつ先にいただいてみせようではないか。

お主はいつも儂があれをちらつかせる度に、まるで私の国に存在することは許さないとでも言わんばかりだが、お主の国と思っているそこは残念ながら儂の国でもあるのだよ。服を着ているのに、お前は素っ裸だと言われているような気分だ。裸の王様といい勝負ではないか。なんならお主は儂の服を着てみたいとさえ思っているのではないのかね。まあ、この服はお主が着るにはさすがにちょっと、いささかやかましいきらいはあるな。

そうして自分だけを信じているような素振りをして、気付けばお主の手綱は儂の手の中ではないか。今儂がこれを引っ張れば、お主は全く動かないのだからお主の首が絞まってしまう。これでは儂はどこにも行けない。この手綱から手を離せばそれで済むのだが、そうすると何とも寂しそうな顔をする。だのに儂に対して何も求めないかのように振る舞う。これでお主を放置して立ち去るようなつまらん真似を、儂ができるとでも思うのかね。

言っておくがお主を責めている訳では微塵もない。隙を狙ってけしからん輩が手綱を握ろうとしているのにお主が全く気付いていないのは警戒心が足りないとは思うが(気を付けてくれたまえ)、何と言っても儂は儂の次にお主を気に入っているのだ。別にお主が何をしようとも、何をしなくとも、そこにいるというだけでよい。お主の生命がゆらゆらと瞬いているのを見るのが儂は好きなのだ。あとはうまいダークマターの一杯でもあれば申し分ないな。何ならお主は寝ていてくれても構わない。お主自身にすら見えないのに、儂だけ楽しんでいるというのは不公平かね。まあ、見えてしまうのだから仕方あるまい。

それに、ちょっと試しに罵詈雑言をふっかけてくれたって、この儂が口喧嘩で負けるはずはないのだから、何も心配はいらない。およそお主の興味のあるものは億光年の彼方に味わい尽くしたし、お主がどれだけ儂から奪ったところで、どうせ全てが儂のものなのだから、何の問題もない。大丈夫だからそんなに怖がらないでくれ。まあ、わかったような口を聞くなとお主はまた怒って生まれたての星でも投げつけてくるのだろうな。

ああ、そろそろ時間だ。次に会う時は、お主がうっとりと眺めていたあの流星をひとつ土産に持って行くとしよう。楽しみにしていてくれ。

草々”

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です