そこには脈打つ心臓があり、ただひとつの孤独があり、いくつかの愛があり


人々が気が付くと、いつの間にか梅の花が、ひとつふたつほころんでいました。
まだまだこんなに寒いけれど、ああ、もうじき春が来るのだと、真っ白な梅の花を眺めて誰もが春の訪れを待ちわびておりました。

けれどただひとり、村の外れに住む少女だけは、どこか浮かない顔をしておりました。
なぜなら、春の訪れは彼女が愛する冬との別れを意味するからでした。

「またしばらくお別れなのね」
梅の木の下に腰掛け、少女は冬に話しかけました。
「…そうですね、春の足音が聞こえます…。この梅も、間もなく満開になるでしょう」
少女の悲しそうな顔を見て、冬もまた悲しそうに答えました。
冬は、少女を励ますように言いました。
「私がいなくても、他の季節があなたを見守っています。生命が芽吹く春も、みなぎる夏も、成熟して輝く秋も、皆みんな、あなたを愛しているのですよ」
自分と同じように、どの季節も少女を見守り、愛していることを冬はよくわかっておりました。
そして、厳しい寒さや雪をもたらし、生命がしんと静まりかえる自分の季節よりも、生命の気配に満ちた他の季節の方が少女を幸せにできると、冬は信じていました。

だから、自分が眠っている春と夏と秋の間、自分を想って待っていてくれなどと、言おうと考えたこともありませんでした。まして、本当は少女がそれを望んでいるなんて、思いもしませんでした。
たとえ少女が他の季節を愛しても、冬にとってそれは当然とも言えることであり、そして自分が少女を想うということだけが、確かなことだったのです。
少女は、そんな冬の優しくて気弱な心を愛し、そしてまたすこしだけ、憎んでいました。

「私は春も夏も秋も好きです。たくさんの生命と共に私たちが生きていることを感じさせてくれます。けれど、…けれど、私が心から愛するのはあなただけです。あなたがもたらす休息こそが、すべての季節の始まりなのです。あなたが与える静寂が、私自身の鼓動を感じさせます。そして、あなたがくれる孤独が、いっそうこの世界と私とをつなぎ、安らぎを与えてくれるのです。私はいつでもあなたが来るのを待ち望んでいます。あなたの側でだけ、私は私でいられるのです」

少女は一度に語ると、息をひそめて冬の言葉を待ちました。けれども、冬は何も答えませんでした。
頬を撫でる暖かな日差しにふと梅の木を見上げると、目覚めたばかりの梅の花が咲き乱れていました。

眠りについた冬を想いながら、少女は目を閉じ、そっと春の手を取りました。

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